story 2

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 「あの神に…フライフィアに会わせて下さい!」


 そう叫んだ彼女を中心として、さらなる光が押し寄せる。

(果たして本当にフライフィアは居るのでしょうか…もし居るならば、どんな異形のものが来るかは…)

などと覚悟を決めていると、青白いもやが消えていくように光が収まり始めた。

(さあ、姿をお見せ下さい…!)

 彼女は部屋の奥へと目を凝らす。

 ゆっくり、溶かされるように、その影を映しだす光。

 背丈は…頭ひとつ分くらい違うだろうか。柔らかそうな肌、いや布だ。あれは肩?足は細く、目立った体毛は頭のみ。

 「…まさか、人の形をとられるなんて」彼女は唖然とする。

 だんだんと暗くなる部屋の中に、暗い青の髪をもつ少年がいた。

 彼の眼はさっきの光と同じ、青白い光を放っていた。

 光が完全に収まる。周りをくるくると少年が見わたすと、彼の瞳も応じて動く。真っ暗だった部屋は、せわしなく動くその瞳によって薄青に照らされていた。

 「あの」

そう彼女が声を掛けようとした瞬間、少年が目線を一瞬こちらに向け、すぐにさっと逸らした。

「しくじった」

 ぽつり。少年の言葉が響く。声変わりはまだ済んでいないような、澄んだ声だった。

 「ならもう、さっきの記憶を消してやって、とっとと帰…」

「あ、やっぱりなかったことになるんですね」

彼女は特に驚くことはなく、ただ受け入れるかのようにそう呟いた。

「何だ?」

「何もなかったことになるなら、1時間の間、色々お話させて下さい」

「…忘れるのにか?」

「気持ち悪さは残したくないんです」

 ふうん、と気だるそうな声をあげる少年。見たところ10歳くらいだが、かなり大人びた話し方をしている。

「それで、願いに応じてくれたということは、あなたはフライフィアなのですよね?」

「俺はそう呼ばれてるのか」

「いえ、私は研究者なのですが。私達の間で、星におわす神々のことを総称してそう呼んでいるのです。他に名前がありましたら」

「俺自身には名前とか、そういうものはない。適当に呼ぶなりなんなり好きにしろ」

 ここで1度言葉を区切り、目線を彼女の顔へと向ける。

「というか、人に名前を聞くのならまず名乗るべきなんじゃないのか」

 忘れてた、というように彼女は顔をゆるめた。


 「大変失礼致しました。私、ユースピア国立研究所で聖物質学を研究しております、ヘーネ=エヴィーストと申します」と、口端を持ち上げてにっこりと微笑んだ。


 「…ヘーネか。なら俺は、フライフィアとでも名乗っておくか」黒にも見えるその髪を揺らしながら、フライフィアはそう答えた。