story 4

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 「はいせつぶつ」
 ヘーネは訳がわからないというように、聞こえた言葉をそのまま返した。
 それもそうだ、今床に転がっているきらめく水晶が排泄物だと言われて信じる人は少ないだろう。生成現場を見てしまってはいるが、生理的な嫌悪感のないその光景は理解を難くする。
「ということは、食べたり飲んだりしたものが、この体では結晶となる、ということですか」
「いや、飲食は出来るが必要ない。飲食したものも吸った息でさえも、俺の中ですべてエネルギーに作り替えられるからな」
「なら排泄自体必要ないのでは?」
フライフィアはううん、と唸ってから、言葉を探すように視線をあちこちに回す。
「エネルギーの暴走を防ぐために、内部で膜に包んでいる感覚だろうか…力を取り出せば膜だけが残り、体の中で結晶になる。願いを叶えられるのはどうしてもエネルギーが少し混じるからだろうか」
「なるほど、なんとなく分かったような。もう少し調べさせて貰えませんか…ん?」
 突然の眠気に襲われたように、フライフィアはヘーネの体に自身の重さをかける。2、3度あとずさりしてなんとか彼女は重みに耐えたが、この体が離れることはなさそうだ。
「えっと、おっと…どうされましたか」
「疲れた。そろそろ戻りたい…十分だろ、もう」
「分かりました、この度はありがとうございました。あとは私の記憶を消して、どうぞ」
ふ、とフライフィアが笑ったような気がした。
「…何年ぶりかに人と話せて楽しかった。他言無用なら、このまま残しても…」
「お気遣い、感謝します。ではありがたく」

 フライフィアはその言葉を聞き届けると、目を閉じて軽く息を吸った。体に纏っていた淡い光が、煙のような帯のような軌跡を描いて抜けていく。
 ヘーネは腕の中の彼が軽くなってゆくのを感じ…ることはなく、ただ横たわる藍髪の少年だけが残っていた。

「なぜ…いなくならないのですか?」疑いの目を向けていると、再び彼の双眸が開き、ヘーネを捉える。

その目には深い夜の空の色をたたえていた。